2025年3月24日月曜日

神代植物公園大温室

 


大温室のドアが一つ開いている

ドアの外は三月の曇り

ドアからは三月の外気が吹き込んでいる

ドアの脇の鉢はサンセベリア・メイソニアナ

熱帯花木園の終わり


バス停があり塀があり門があり 

塀の中に森があり

森の中には道があり

道は大温室までくねっている


針葉樹園を抜け

雑木林に沿って歩き

かえで園うめ園

折り返してばらの園

長四角い池のむこうに大温室が建っている


極東の温帯の三月の半ば

私は黒いコートの前を開けて震えることはない

緑の葉は風に揺れているけれど

風の冷たさに震えているわけではないのかどうか

サンセベリア


本当は針葉樹園からすぐにここへ来ることができるのに

行きたいところまで行ってから戻って来る

眠っている薔薇を咲き誇る薔薇のように眺めてもよい

ドアの前は温かすぎない風で居心地がよい

湿度と温度の保たれた大温室に

ほどよい風を吹き入れるため開け放たれた三月のドア



2022年3月22日火曜日

短歌(2022年3月)

(上旬) 
3階に明かりがつけば道の上の人も見上げる築50年

隙間あるカーテン、天井、天使の輪。須臾に過ぎゆくくらしのすべて

1Kのくらしを照らす天使の輪黒く湿った路面も光り

(中旬)
 春の缶に刷毛つけて塗りまたつけて塗る春草の輝くみどり 

 腰叩きつつ見返ればわが塗りし春草の帯よく塗ったものかな 

 道の辺に数歩よろめく足の跡 ハル塗りたて!の若草の色

2022年2月17日木曜日

短歌2首2022年1月から2月中旬

 あの雪の日を君が忘れても降り積むものが陰を去らない

すべてうそ歌舞伎町の客引きとレターパツクで現金オクレ

2020年9月21日月曜日

夜道のももんがあ


気をつけよう暗い言葉と甘い道

 

駅から家に帰るまでのあいだにも、暗い道にはいろんなものが飛び出してくる

まず羽音がしてガレージの明かりに向かってなにかが突撃する、その道すじに私が立っている

あまり重い羽音ではない、光の中に浮かんだ形は丸く白かった

道脇に大きく広がっているアロエでは手を切る


ここらへんの道には、ももんがあが出るんですよ

ここらへんはね、よくももんがあが飛び出してきます

帽子をかぶり、網を持ち、夜の森の道を歩きながらその人が言っていた、テレビで

森の道だからここらへんの「道」とは違うけれど


ももんがあがよく出る道に、必ずももんがあが飛び出してくるとは限らない

飛び出してくるものがももんがあかどうか、目の前を横切る瞬間までは確かではない

「ももんがあだったな」と思っても、次に飛び出すものも同じようにももんがあかどうかは、わからない


何かが飛んでくる気配がする 

占星術とbobaティーについての詩

 あなたは蟹 硬い殻を有ってる


端末の中でホロスコープを回して友だちは教えてくれる

7月の真夜中近くに生まれて

優柔不断

打ち解けるのに時間がかかる

愛情深いが

温順しそうな外見の防衛的な中身

そうそう

ほんとにそう

彼女とは8年のつきあい

この8年の間に

街でお茶を飲んだのは友だちだけ

これからまた8年がたち10年がたって

8年が10回たって一生が終わるだろう

8年に1人と私は街でお茶を飲む

硬い殻の中においしいかにみそ――

いえ愛 まごころ?をかかえていても

味わわなければ なんになろう?

ぶくぶくとbobaティーを泡立てる

人は死して名を残す 蟹は死して殻を残す

殻からはキトサンがとれるだろう


私は蟹 硬い殻を有ってる

アロワナ・タイム(詩、Ghost In The Shellシリーズに)


背後に開いた窓の中の茜色の夕映えが

前のアロワナの水槽に映って桃色になる

桃金の雲と空の中に私の顔が浮かんでいる

さっきつけた電灯も一列になって映っている

この部屋で思い出でないものはどれとどれだろう


空と雲はまさに今窓の外を動いていく

そして私の顔はけさの鏡と同じに見える

アロワナは私の思い出ではなく

かれら自身の思い出でもない

かれらを撮ったカメラマンの思い出でもない

泳いでいるのはこの世に存在したことのないアロワナ


お住まいの窓が一面の水槽になる3Dバーチャル水槽(リッチアロワナ)

とはいえ何匹ものアロワナを無からつくり出すのは無謀

静止画ならまだしも同じ動きは繰り返さず泳ぎ続ける動画

かれらはオリジナルの動きを分析し公式にしてプログラムされた

かれらは断片化した思い出の集合体である

その鱗のそよぎその鰭の挙措


水槽の透過度を50%まで上げると

奥行きのない水のむこうが夕映えている

二重に映る桃金の雲

私の顔 直管灯 大きな魚

わずかなラグを生じて映ずるすべてが思い出

2019年10月23日水曜日

ル・グィンを読んで作った詩 2篇

母の声(inspired by U.K. Le Guin Winter′s King)

                 (2018.Sep.9)


 声が聞こえる
 男でも女でもない声
 胎内から出たこともないのに
 そのどちらかがわかるわけがないじゃないか
 その声はいまわたしがいる暗闇
 そのひとの声だ
 温かい暗闇そのものが震えるから
 わたしはわかる
 わたしはその声をおぼえた。
 光の中に出てからも

 その声はいつも話している
 自分の行為によってわたしを生み出してしまったから
 心配しているのだ
 心配することなどないのに。

 その声は大切なことしか言わないから
 わたしはいつも耳を傾けている
 やぶで遊んでいるときも
 試験を解いているときも
 その声はあらゆることを語る
 そのひとはどこから来たのか
 この世界とはどんなところか
 危険について
 理想について

 舌が消え、頭蓋が滅びても
 その声はわたしにやさしくささやきつづける
 やがてわたしが暗闇のなかへ戻っていくとき
 暗闇の中で
 その声を最後に聞くだろう。



あなたの・にのうで 


 
 あなたの肩からつづくあなたのにのうで
 袖なしから溢れ出るあなたのにのうで
 細いほうではなく太いほうのにのうで
 もし必要がないときは何も着ようとはしない
 あなたのにのうで

 おりたたまれて隙間を柔らかい肉が埋めている
 肌色は人間の肌のグラデーションのある点を示している
 細い、けれど短くはないうぶ毛が輪郭を少しあいまいにしている
 胴にひきつけられて手元を安定させている
 にのうで
 私が触れたとすれば
 冷たく そして温かい
 あなたのにのうで