2018年4月29日日曜日

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んで作った詩

 行く手の段の上に、なにか小さいものがほこりの中で動いていた。
 それを見るなり、イジドアはスーツケースをほうりだした。

(フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』朝倉久志 訳、  ハヤカワ文庫、1977年)



  「『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んで作った詩 」


 むかいの座席(シート)の男性の
 しらが混じりの頭のかげに 蜘蛛がいる
 手のひらほどの
 磨りガラスの
 蝋製の
 白い大きな蜘蛛

 外側にいるのだろうか
 猛スピードで東へ走る急行電車の窓の
 蜘蛛は内側にいるのだろうか

 ふたたび黒い文庫本の中にもぐりこむ
 Do Androids Dream of Electric Sheep?

 顔を上げると
 もう蜘蛛はいない
 蜘蛛などというものは
 ずいぶん前から

 電車が走り去った
 線路の間に
 磨りガラスの蜘蛛の脚が落ちている
 もうずっと前から 

 電車の窓に蜘蛛の亡霊がはりついていることがある
 白い手のひらほどの

 ホームにちらちら漂っている埃は
 小さな羽のある虫の亡霊で
 この季節になるとあらわれる

 (げんじつにはまだ蜘蛛はいる)
 電車の窓に蜘蛛がはりついていることがある
 電車の窓に蜘蛛の亡霊がはりついていることもある