大温室のドアが一つ開いている
ドアの外は三月の曇り
ドアからは三月の外気が吹き込んでいる
ドアの脇の鉢はサンセベリア・メイソニアナ
熱帯花木園の終わり
バス停があり塀があり門があり
塀の中に森があり
森の中には道があり
道は大温室までくねっている
針葉樹園を抜け
雑木林に沿って歩き
かえで園うめ園
折り返してばらの園
長四角い池のむこうに大温室が建っている
極東の温帯の三月の半ば
私は黒いコートの前を開けて震えることはない
緑の葉は風に揺れているけれど
風の冷たさに震えているわけではないのかどうか
サンセベリア
本当は針葉樹園からすぐにここへ来ることができるのに
行きたいところまで行ってから戻って来る
眠っている薔薇を咲き誇る薔薇のように眺めてもよい
ドアの前は温かすぎない風で居心地がよい
湿度と温度の保たれた大温室に
ほどよい風を吹き入れるため開け放たれた三月のドア