2020年9月21日月曜日

夜道のももんがあ


気をつけよう暗い言葉と甘い道

 

駅から家に帰るまでのあいだにも、暗い道にはいろんなものが飛び出してくる

まず羽音がしてガレージの明かりに向かってなにかが突撃する、その道すじに私が立っている

あまり重い羽音ではない、光の中に浮かんだ形は丸く白かった

道脇に大きく広がっているアロエでは手を切る


ここらへんの道には、ももんがあが出るんですよ

ここらへんはね、よくももんがあが飛び出してきます

帽子をかぶり、網を持ち、夜の森の道を歩きながらその人が言っていた、テレビで

森の道だからここらへんの「道」とは違うけれど


ももんがあがよく出る道に、必ずももんがあが飛び出してくるとは限らない

飛び出してくるものがももんがあかどうか、目の前を横切る瞬間までは確かではない

「ももんがあだったな」と思っても、次に飛び出すものも同じようにももんがあかどうかは、わからない


何かが飛んでくる気配がする 

占星術とbobaティーについての詩

 あなたは蟹 硬い殻を有ってる


端末の中でホロスコープを回して友だちは教えてくれる

7月の真夜中近くに生まれて

優柔不断

打ち解けるのに時間がかかる

愛情深いが

温順しそうな外見の防衛的な中身

そうそう

ほんとにそう

彼女とは8年のつきあい

この8年の間に

街でお茶を飲んだのは友だちだけ

これからまた8年がたち10年がたって

8年が10回たって一生が終わるだろう

8年に1人と私は街でお茶を飲む

硬い殻の中においしいかにみそ――

いえ愛 まごころ?をかかえていても

味わわなければ なんになろう?

ぶくぶくとbobaティーを泡立てる

人は死して名を残す 蟹は死して殻を残す

殻からはキトサンがとれるだろう


私は蟹 硬い殻を有ってる

アロワナ・タイム(詩、Ghost In The Shellシリーズに)


背後に開いた窓の中の茜色の夕映えが

前のアロワナの水槽に映って桃色になる

桃金の雲と空の中に私の顔が浮かんでいる

さっきつけた電灯も一列になって映っている

この部屋で思い出でないものはどれとどれだろう


空と雲はまさに今窓の外を動いていく

そして私の顔はけさの鏡と同じに見える

アロワナは私の思い出ではなく

かれら自身の思い出でもない

かれらを撮ったカメラマンの思い出でもない

泳いでいるのはこの世に存在したことのないアロワナ


お住まいの窓が一面の水槽になる3Dバーチャル水槽(リッチアロワナ)

とはいえ何匹ものアロワナを無からつくり出すのは無謀

静止画ならまだしも同じ動きは繰り返さず泳ぎ続ける動画

かれらはオリジナルの動きを分析し公式にしてプログラムされた

かれらは断片化した思い出の集合体である

その鱗のそよぎその鰭の挙措


水槽の透過度を50%まで上げると

奥行きのない水のむこうが夕映えている

二重に映る桃金の雲

私の顔 直管灯 大きな魚

わずかなラグを生じて映ずるすべてが思い出